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CTインタビュー

マーケット分析でCSは得られない
CRM第2フェーズの要諦は“最適化”

桑島 正治氏
日興コーディアルグループ 取締役

桑島 正治氏Photo

日興證券グループが昨年10月から持株会社体制に移行し、
新たなスタートを切った日興コーディアル グループ。
証券業界でいち早く実践した“ワンストップチャネル”の顧客対応をさらに進化させ、
クリック&モルタル型の新カスタマーセンター設置や、まったく新しい概念の最適化
(オプティマイゼーション)ツールを国内で先進的に導入するなどの施策を次々に打ち出している。
グループのITインフラとCRMシステム構築を統括する桑島正治取締役に、新戦略を聞いた。

  テクノロジー担当役員としてグループ全体のITシステムを管轄されているわけですが、新体制移行後のシステム統合など、進捗状況はいかがですか。

桑島 持株会社とグループ各社の社内イントラネットを統合しコミュニケーション強化を図るなど、インフラ整備をまさに進めているところです。IP-VPNを使ってメガ回線を各店舗に張り巡らし、画像情報を共有できる仕組み作りなどに着手しています。また、顧客対応システムも強化しています。具体的には、CTI/CRMを駆使し、CSとローコストオペレーションをいかに両立して進めるかが焦点です。
 当グループにはオンライン専業の日興ビーンズ証券もありますが、その一方で店舗でもオンラインのニーズが出ています。そこで、既存の店舗とコールセンターとは別にクリック&モルタル型の接点として「ファイナンシャルサービスセンター(略称:FSC)」を地区エリアごとに設置する計画です。当面、東・名・阪の3カ所で今春からオープンします。

CRMの主眼にすべきは
「管理」ではなく「CS向上」

  新センターの役割は何ですか。

桑島 コールセンターと店舗それぞれの持ち味を融合した中間的な機能を目指すものです。例えば、地域性を維持した形でお客様への親近感を高めた顧客対応や、対面ならではの的確なアドバイスを既存店舗とは違った手法で実現する、いわばコンサルティング機能を持つコールセンターと言えばよいでしょうか。これをエリアごとにオペレーションコストを考えながら拡充していく考えです。現在、コールセンターは東京の1拠点に集約しており、また営業店舗数は全国で120店前後あるわけですが、今後、FSCを順次増やし相乗効果を高めていきます。

  新体制になって対顧客戦略に基本的な変化はあるのでしょうか。

桑島 証券業界でいち早く“ワンストップチャネル”の概念を取り込み実践しています。店舗やインターネットなど個々のチャネルごとにお客様を把握するのではなく、店舗・コールセンター・インターネット、さらにモバイルまで含め、全て同じように対応させていただいております。『会社全体にとってのお客様』という考え方は新体制移行後もまったく変わりません。新社名のコーディアルは英語で「真心をこめた」という意味ですが、これにコード(絆)とダイアローグ(対話)という解釈を加え、お客様との接点をより深くしていく考えです。
 ともすればCRMは管理面に主眼が置かれがちですが、そもそも管理とCS向上は一致しません。問題は、顧客情報をどうフィードバックし営業現場向けに加工してアウトプットできるか、その実践力にかかっています。

  現行のCTI/CRMシステムについて説明してください。

桑島 コールセンターのPBXは、今後の方向性からトライアルとして一部でUnPBXを導入します。CTI部分はSIのシンプレックステクノロジー社と共同開発した独自のソリューションシステムで、グループのシステム会社、ファイナンシャル・ネットワーク・テクノロジーズが管理している顧客DBと連動させています。CRMソフトは自社開発していますが、一方でパッケージ製品の使い勝手が年々向上しています。しかし、危惧しているのはベンダー間の合併や買収の動きが非常に激しい点で、CTIとの連動部分やサポート・メンテナンスへの影響に留意しています。

マーケット分析と顧客分析とでは
手法が根本的に異なる

  顧客対応はインバウンドが主体でしょうが、規制緩和により証券会社で取り扱える商品が増えているだけに、アウトバウンドのシステム化も重要になっていると思いますが。

桑島 まだクロスセルまでは行きませんが、変額保険をはじめ取り扱い商品が幅広くなっていることから、効率的なアウトバウンド手法を確立する必要があるのは確かです。新たな分析系ツールとして米マーケットスイッチ社の最適化ソフト「TRUE Suite」を導入したのもその一環です。もちろん分析そのものは従来からいわゆる線型モデルの方程式を解くやり方で、膨大なコストと手間をかけて行ってきたわけです。しかし、これまで一所懸命に分析してきたのは株価予想をはじめとするマーケット分析であって、顧客そのものの分析とは言い難いものです。
 マーケット分析と顧客分析とでは根本的な違いがあると思っていた矢先に着目したのがTRUE Suiteでした。非線型モデルであり、これまでの経験則から言えばこの選択が正しいかどうかは正直なところまだわかりません。しかし、多様化する顧客ニーズに踏み込みその感性まで分析するためには、これまでとはまったく概念の異なるツールを用いないと難しいと考え、昨年末からトライアル導入しました。今後、検証から本稼働に向け、新たな視点に立った情報収集とデータ分析・抽出、ターゲットの絞り込みの手法を確立していく考えです。

  証券会社としての顧客最適化とは具体的にどういうことですか。

桑島 例えば、株式を好まれるお客様と債券など金利商品を好まれるお客様では、もともと入り口も違えばリスクに対する許容度にも大きな開きがあります。またお客様個々の資産の大きさによっても許容度が変わってきます。これらを細かく分析し最適化することで、的確な商品提供などCSの最大化が図れます。また、これをシステム化により効率的に推進できれば私どもの収益面でも具体的な数値としての貢献が果たせるわけです。

  最適化した顧客へのアプローチ手段も多様化していますね。

桑島 従来からのDM、電話でのアウトバウンドに加え、Eメールをはじめとする新たなチャネルが増えています。とくにメール活用はこれから本格化していきます。ただ、ここで考えなければいけないのは、最近頻繁に使われるワン・トゥ・ワンという言葉の中身をよく理解すべきだということです。アンケート一つとっても、応対の仕方や時間といった接客態度の項目分析が真の顧客ニーズに結びつくとは限りません。一口にCSと言っても主体が随分違う気がします。これを新たなツールを用いてどんな項目が効いているのか、案外年収や年齢、購買サイクルといった、従来のアンケート分析とは異なる意外な結果が出るかもしれません。CSに最も有効な項目を見極めることで、例えば新規獲得のアプローチをその有効項目を集約したアンケートに形を変えて実施するとか、もっと見直していかなければなりません。

“辞典”になりがちな営業のナレッジ
常時メンテナンス抜きには進展しない

  新手法を実践していくには、ツール導入と同時に社内体質、さらには社員の意識改革も求められると思います。とかく、定性から定量化への意識付けや部門ごとの数値化は、これまで国内企業が苦手としてきた点ですが。

桑島 コールセンターやインターネット部門と、従来型の営業のビジネスモデルを持っている部門との融合や、社員の意識共通化は徐々に進展してきています。そもそも営業マン自身がCRMそのもので、この個々の経験やノウハウをいかに共有できるかがシステム化の主眼です。営業マンからすればインセンティブというか自分達のメリットをどう肌で実感できるか、収益として見れるかが最大のポイントで、ここを会社運営の枠組みの中でうまく実現できれば、浸透は早くなります。
 いわゆる営業のナレッジ化の取り組みについては、米社のソフトウエアの製品を採用している部分と独自の作り込みの部分が混在していますが、いずれにしても各部署から検索エンジンを使って入力しています。しかしナレッジ化とそのマネジメントは簡単なものではありません。最大のネックはナレッジのメンテナンスがなかなかできないことです。
 例えば、ある業務手順に変更が出た場合、ナレッジの中身も変える必要があるわけですが、現実には一方的に情報が蓄積されるだけで、いわば辞典のようになっているのです。その中身を誰が責任を持ってメンテナンスし公開するのか、社内コンセンサスを取りつつ進めることが実は大変なのです。さらに、情報の発信と公開だけで終りではなく、適切な部署と社員に的確に伝わり活用できるかが重要で、これを各部署ごとに合意を取って進める必要があります。このようにナレッジ化の全社的な推進はかなりの労力と時間を要しますが、新ツールの導入を契機に、できるところから促進していく考えです。

  CRMパッケージはROI(投資対効果)が見えにくいことが問題視されていますが、今回の最適化ツールではどれくらいの導入効果を期待されているのですか。

桑島 米国の事例では大手カード会社が導入後に10%の生産性アップを達成したという話をベンダーから聞いていますが、この数値を当方でも実現できるかどうか、現段階で明確には言えません。というのは、お客様の資産をお預かりして利益をいただいている部分もあれば、商品の販売利益もあり、それぞれを紐付けして考えないと数値化は難しいからです。ただはっきりしているのは、ツール導入などのIT化によって洗練されたオペレーショナルな業務フローを確立することが最大目的で、これをローコストで実現できればベストだということです。この観点でいえば、最適化ツールはROIが明確に出しやすい実用ソフトだと認識しています。

(聞き手・鈴木 信之)


桑島 正治  (くわしま しょうじ)
日興コーディアルグループ 取締役

1944年1月1日、島根県生まれ
67年3月、慶應義塾大学経済学部卒
73年9月、国際ロータリー財団奨学生として、
米ニューメキシコ大学経営大学院へ留学

<職 歴>

955年1月2日、富山県生まれ
77年3月、東京工業大学工学部卒
同年4月、日興證券入社
99年6月、日興證券執行役員 事務・システム共同担当
2000年3月、執行役員 グループIT担当
01年3月、執行役員 テクノロジー担当
同年10月、日興コーディアルグループ取締役
テクノロジー担当委嘱


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