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CTインタビュー

モール運営の実証データを基に
企業のCRM実践を支援する

中村 清高氏
いい生活 代表取締役社長

中村  清高氏Photo

住宅、クルマ、ギフトなど生活情報のインターネット・モール「e生活」を運営するいい生活社。ヤフー、楽天など既存の運営会社とは全く異なる手法でビジネス拡大を狙う。「主眼はDBマーケティング、CRMをインターネット上で実現したい企業顧客に対して、システムとソリューションノウハウをASPで提供すること。収益源もここにあります。モールはその手法を最適化する実証の場。また当社の認知度を高めるブランディング手段に過ぎません」と、証券マン出身の中村清高社長は語る。浮沈の激しいネット業界で、これまでにないスタイルを目指す同社ビジネスの核心は何か。またそれを実現するシステムの中身は──中村社長に聞いた。

  会社を設立したきっかけと目的は何ですか。

中村 私はゴールドマンサックス証券の出身で、企業のIPOや資金調達などを担当していました。顧客企業の資金調達の目的は、システム投資や合理化投資も多かったのですが、その投資金額は莫大で、フロントの部分でもコンサルティングを含めてかなりの投資が行なわれていました。その時実感したのは、コンサルティング会社にしても取引ベンダーにしても、顧客企業が何に困って何を欲しているか、そして今後何をやりたいか、本当に理解しているのかということです。悩みを咀嚼しシステムエンジニア側に的確に説明でき、その成果として顧客ニーズに真にフィットするプロダクトを実現できるプレーヤーが決定的に不足していると思いました。
 マネージングディレクターとして内側から顧客のベストソリューションを常に考えていた経験から、このプロセスを丸ごとアウトソーシングで行なうことを考えました。そして着目したのがネットビジネスで、Web・インターネットなどITを駆使して顧客企業のネットビジネスをフルサポートするビジネスモデルの確立を目指し、2000年1月に5名の仲間と新会社を設立したのです。

  御社のインターネット・モール「e生活」では不動産をはじめ、クルマ、ギフト、冠婚葬祭など、さまざまな情報サービスを提供していますね。

中村 子供向けを除く生活情報全般をカバーし、会員は首都圏の30〜40歳代のビジネス層を中心に男女比率は半々。会員登録には住所、勤務先まで含めたフルIDを取っていますが、2000年夏の募集開始以降コンスタントに増え、現在2万数千規模。この間、純減は一度もありません。しかし、これがビジネスの主目的ではありません。社名のイメージから生活情報のインターネット・モール会社と思われがちですが、Webサイトは当社の認知度アップと技術力をアピールする、いわばショーウインドウでブランディングの手段です。このため、サイト出店者には固定課金のみではなく、従量課金を併用し、通常のアウトソースでは固定費となる部分も変動費化しています。最近のドットコム企業のように出店者を多数獲得し、そこで利益を得るビジネスではありません。

収益はASPをメインに伸ばす
顧客企業は200社弱

  すると、収益構造はどのようになっているのですか。

中村 当社のコアビジネスは4つのブロックがあります。高度なインターネットテクノロジーで構築した情報管理システムの提供とサポートを行なうソリューションテクノロジー(S)、蓄積したノウハウで操作性の高いWebインタフェースを実現するWebユーザービリティ(W)、システム構築から情報戦略までをフルサポートするコンサルティング(C)、そしてブランディング(B)としてのWebサイトe生活です。
 このうちSとWがビジネスの核となる部分で、顧客企業は200社弱に達しています。他のインターネット・モールと異なる点は、構築したシステムを顧客企業が自社のドメインで運用しても、ヤフーなど他のサイトに出店して利用してもOKだということです。もちろん当社のe生活サイトを使っていただいても構いません。このエンジン部分を企業が自社で開発しようとすると、ネットビジネスではとてもペイしないケースが多いので、当社がASPとしてシステムとノウハウを提供しているのです。ただ、SとW及びCは表面に見えない部分で、当社が何をやっている会社か外部に理解していただくために自らインターネット・モールを運営しているのです。

  御社のようなビジネスモデルは他にないと思いますが。

中村 インターネット・モール、ASP、Webコンテンツ制作、コンサルティングと個々には実に多くの会社があります。とかく起業を思い立つと、人がやっていないことを追求するあまりキワモノになり過ぎ、利益があがらない例をよく聞きます。私は当初から4つのコアを一体にしないとビジネス化は難しいと考えました。個々には当たり前でも4つを一体で提供することがポイントです。自らモールを運営することで、消費者が何を求めているか、企業が商品DBや顧客DBをどのような形で構築し、どんなツールを使ってCRMにつなげたら良いのかを体験的に実証できます。このデータを活かすことで、顧客企業の課題に真に応えるシステム構築が可能になりますし、コンサルティングにも迫力が増すのです。
 物販で見ると、DBマーケティングやCRMの仕組みが分かりやすいのですが、例えば、ペットショップと不動産会社という一見かけ離れた業者がWebサイトe生活内で協業すると、ユーザーの属性によるデータマイニングで、潜在ニーズをくすぐるような的確な住宅情報の提供が可能になります。

フロントを含めフルJavaシステム
構築は全て自社エンジニアが内製

  システムはどのような仕組みですか。

中村 当初の検討段階ではLinuxとPHPスクリプトの組み合わせを考えていました。しかし、提供するコンテンツが具体化するのに伴い、スクリプト言語では手間取ることから、JavaとWebアプリケーションサーバーを採用することにしました。システムの根幹はJava(J2EE)で構築し、現在多くのインターネット・システムで用いられているCGIベースに比べ、信頼性と拡張性を確保しています。また、XML技術を積極的に取り入れてデータの独立性を高め、かつ柔軟なシステムを確立しています。
 Javaベースであることからプラットフォームはサン、Solaris。また、WebアプリケーションサーバーにBEA WebLogic Server、データベースにはOracle8iを採用しました。金融系の社内システムなどでJavaベースも増えていますが、Webユーザービリティなどフロント部分を含めてフルにJavaで構築しているところは稀で、Javaのアドバンストユーザーとして、Java開発元であるサン・マイクロシステムズからも高い評価をいただいています。しかも、外注やパッケージを用いず、全て内製で作り込んでいる点も特徴だと思います。

  自前ですと技術スタッフの採用に苦労しませんか。

中村 ヒントは米サン・マイクロシステムズのCEO、スコット・マクニーリ氏のある講演後の会合でした。その時、技術者不足が話題になりましたが、マクニーリ氏に「なぜ大学に行かないのか。大学には若い優秀な人材がたくさんいる」と言われました。確かに、一旦日本企業の枠にはまったエンジニアは、ぬり絵は上手く描けてもデッサンから仕上げまで一人でできなくなってしまいます。そこで伝手を頼って大学にコンタクトし、しかも新卒ではなく1回のリクルートには応じてこない大学院のエンジニアを個別に説得しました。すると、研究テーマが当社の目指すビジネスコンテンツと一致する人材もいたりして、多くのスタッフが参集しました。現在の社員数は32名ですが、そのうち3分の2はこうして集めたエンジニアです。

DBマーケティング、CRM手法を
e生活サイトで実証する

  Web中心のネットビジネスは隆盛な半面、失敗も多いのが実態ですが、御社のビジネスは軌道に乗っているようですね。

中村 失敗例で多いのは、多額な資本金を集め広告宣伝に莫大な費用をかけ、メディアへのアピールだけで勝負しようとするケースでしょう。Webビジネスで怖いのは一過性ということで、コンテンツとシステムの仕組みがしっかりしていないと継続しません。また、ブランディングの確立が広告宣伝費と比例して可能かというと疑問です。私共はもともと証券会社で顧客企業の相談を受けてきた経験を基にビジネスを興したので、商売の肝は外さないつもりです。

  このほど、三菱商事と資本関係を強化していますが、その理由は。

中村 従来から有力株主の1社でしたが、三菱商事さんのコンシューマ事業本部のなかにDBマーケティングを推進している部門があり、当社の目指すビジネスとターゲットがピッタリ一致したので、新規発行株式の第三者割当を引き受けていただき、既発株式と合わせて18%を保有する筆頭株主になりました。当社のシステムをコアエンジンにしてDBマーケティング、CRMのノウハウを確立していくことになります。

  今後の目標を聞かせてください。

中村 今期売り上げは2億数千万円規模で、先程のSとWで約90%を占めています。今後もこの部分を主軸にビジネスを拡大していきます。Bはショーウインドウの位置付けですが、Cのコンサルティング事業を強化する上でも重要です。例えば、ある顧客企業からWebサイトの効果的な使い方の依頼を受けた場合、Webサイトe生活でのコストとリターンのバランスなどの実証ノウハウを活かすことができるからです。ベンチマークの確度を上げるためにも会員数の拡大は必要で、10万規模になればDBの信頼度が高まります。ただし、あくまで絶対数が目的ではありません。逆にあまり多過ぎてもマイニングが大変で、的確なコンサルティングができにくくなります。

  VoIPのインフラが近い将来ブレークスルーしそうですが、ボイスを含めたコンテンツは考えていますか。

中村 ブロードバンド時代に向け音声と画像を取り込む準備は既にしています。ただ、Webサイト利用は会社の昼休みなどのケースも多く、使い方を誤ると顧客離れをきたしかねません。ボイスで何が有効か活用法を検討していきます。

(聞き手・鈴木 信之)


中村清高(なかむら きよたか)
いい生活 代表取締役社長

1959年1月11日生まれ 81年、横浜国立大学経済学部卒
同年、日興証券入社。国際金融部配属
83年、日興ヨーロッパ 機関投資家営業・引受
88年、日興証券 発行市場課 90年、ゴールドマンサックス証券 株式資本市場部設立
98年、ゴールドマンサックス証券 マネージングディレクター就任
2000年、いい生活設立。代表取締役社長就任 1980〜90年代を通じ数多くの日本企業の資金調達を担当。直近では銀行による優先株式の発行、NTTドコモ公開などのプロジェクトに携わる。

 

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