CTロゴS 5月号INDEXへ戻る 


CTインタビュー

市場拡大のキーワードは“ROI”
コンサル力を高め経営プロセス変革を支援

日高 信彦氏
日本アイ・ビー・エム e-ビジネスソリューションズ CRMソリューションズ部長

桑島 正治氏Photo

CRM分野のトップベンダーとのアライアンスをコアに、
CRM市場で一大勢力を築きつつある日本IBM。
続々と登場する新しいテクノロジーのなかから“勝ち馬”を見抜くには
「数年先の業務要件まで見通したうえで、“何を行いたいのか”という目的を明確化し、その2つを
実現できる製品を選定すること」と日高部長は強調する。さらに同社では、
それらの新しいソリューションのROIを明確に訴求することで自社の売上げと市場の拡大を図る。

  2000年以降、IT不況といわれるなかでもCRM市場だけは順調に伸びていると言われています。一方で、少なくともコールセンターの新規導入案件は減少傾向にあるようです。具体的な規模まで含めて、現在の市場をどのように捉えていますか。

日高 コールセンターを中心としたSFA(Sales Force Automation)、MA(Marketing Automation)などのフロントオフィス―オペレーショナルCRM分野の市場規模は、約4000億円に達したと見ています。前年比では20%増で、確かにそれまでの成長に比べるとやや鈍化している印象は否めません。ただ、これは景気が低迷しているから買い控えが発生していることもありますが、各企業が新しいマーケティングの方向性を模索していることに起因していると捉えています。

  次フェーズ発展前の“踊り場”ということですね。今後ユーザー企業のマーケティング志向は、どのような分野にフォーカスしていくのでしょうか。

日高 例えば、CRMへの取り組みで先進的とされている金融業界、とくに銀行を見ると、コールセンターのシステム化によるテレホンバンキングからはじまって、インターネット/モバイルバンキングへとチャネルを拡充してきました。この間、顧客データは着実に蓄積されています。次フェーズでは、このデータを有効活用し、いかにして効果的なキャンペーンを実施するか―つまり分析系ソリューションへのニーズが高まると予想しています。

  御社が提唱している“アナリティカルCRM”ですね。

日高 そうです。また、顧客データをマイニングしてキャンペーン効果を高める―このような新しいマーケティング手法を確立するには、営業プロセスの変革も必要となります。必然的に、再びSFAが脚光を浴びるでしょう。具体的には、コールセンターやWebサイトなど新チャネルでの顧客コンタクトが増えたことで、営業マンとリアルタイムで情報共有するナレッジマネジメントの必要性が高まっています。営業支援システムとコールセンターは、もはや切り離して考えることはできない存在になりつつあります。

  しかし、そのようなBPRを実践するには、ユーザー企業がその必要性に“気づく”ことが前提になります。その傾向は感じられますか。

日高 すでに一部の先進ユーザーは、コールセンターのDB分析をもとに全社的なワークフローの再構築に着手しています。とくにリテール・バンキングを重視している一部の銀行は、“顧客の顔が見える情報”の共有を目指してCRM分野へのIT投資を行う傾向が強い。例えば、住友信託銀行さんは、コールセンター構築からデータマイニングを実践し、さらに全店利用可能な営業支援システムを構築、全社的に顧客情報・営業ノウハウを共有できる体制を整えるなど、営業プロセスを革新するために積極的に取り組んでいきます。この流れは、他業種にも及ぶでしょう。

  具体的にはどのような業種でCRMへの投資が盛んになると考えていますか。

日高 製造業、とくに保守業務を伴うハイテク産業でオペレーショナルCRMの強化がはじまりつつあります。SFAというよりフィールドサービスですが、コールセンターを総合顧客窓口として、そのDBと現場のCE(Customer Engineer)の持つ端末を連携する。このような新しいタイプのセンターは今後有望なマーケットです。また、製薬業でもMR(Medical Representative=医薬情報担当者)支援の拠点としてコールセンターを構築する事例も出てきました。

自社での経験をもとに
CRMレベル測定パッケージを提供

  市場は今後も高い水準の伸び率を維持できる見通しにある、ということですね。一方、90年代末のコールセンター・ブーム以降、さまざまな新しい技術が国内でも導入されてきましたが、そのようなテクノロジーのなかでも“勝ち組、負け組”がはっきりしてきたように見えます。今後市場で勝ち残るテクノロジーはどのようなものだと考えていますか。

日高 間違いなくトレンドとなるのはマルチチャネル統合ソリューションです。コールセンターの普及は、かつての販売チャネルより維持コストが安いこともその一因でした。WebやEメールを有効活用すれば、音声よりもさらに安価で顧客対応ができます。
 しかし、チャネルごとに異なった対応をすると逆効果になります。一貫した顧客対応をするにはコンタクト窓口は一元化しないと不可能です。コールセンターはその拠点となりますので、DB統合は大前提です。また、ナレッジマネジメントの実践など、社内での“情報の流れ”に着目しても、顧客DBにはすべてのコンタクト履歴を統合すべきです。

  マルチチャネル統合型のコンタクトセンターは、提唱されて数年経過しているにもかかわらず国内事例は少ないのが現状ですが……。

日高 テクノロジー的には、Webサイトからの“コールミー・バック”機能に代表されるWebと音声の融合技術も確立し、さらにジェネシス社の「G6」に代表されるミドルウエアでマルチチャネル・アクセスのルーティングを適正化するユニバーサル・ルーティングなど、統合コンタクトセンターを構築できる環境は整っています。
 しかし、このような新しい技術を導入するには、投資に対する効果―ROIをいかにして訴求できるかにかかっていると捉えています。ユーザー、SI・ベンダーともに、これまではその点を曖昧にしていたのが現状です。

  そのための取り組みについて具体的に教えて下さい。

日高 IBMは、自社でCRMを導入して経営基盤を強化した経緯があります。まず、販売管理費の削減を目的にコールセンターを設立し、アウトバウンド機能を加えたセールス・センターに進化して売上げ・利益を拡大しました。そのプロセスをもとにROIを算出するノウハウを持っています。今後は、それをベースにお客様の“CRM度”の測定・診断、ソリューション導入後のROI試算といった一連のプロセスをパッケージ化したうえで提供する予定です。
 ROIの算出には、お客様それぞれに応じた密接なコンサルティングが不可欠になります。現在、お客様のCRM実践を支援する「セル&サポート」というセクションを設けていますが、その150名のうち約50名がコンサルティングを担当しています。

ワークフロー再構築から教育まで
既存ユーザーへ機能強化を訴求

  CRMに限らず、ソリューションを売るためにはITに立脚したコンサルティングの必要性が叫ばれています。

日高 お客様に対して、“わかりやすいメッセージを出す”ことがSIの大前提になると考えています。現在のCRMのレベルを診断し、ROIを算出したうえで導入プランを策定する、という一連のプロセスを明確に提示する。その過程では、弊社のコンタクトセンター(幕張・川崎・沖縄)をリファレンス・サイトとして公開、オペレーショナルな部分をお見せしています。
 また、すでにコールセンターを構築しているお客様には、エージェントが効率的に業務を遂行できるワークフローや教育制度の変革を提案、センター機能の強化を訴求しています。当社のセンターでも実施しているeラーニングなどはその一例です。

  ユーザー企業がCRM導入を成功させるための条件を提示したうえで実際のオペレーション・モデルを見せるという手順を重要視しているわけですね。では、ソリューションを選定する際に重視しなければいけないポイントを教えてください。

日高 何よりも重要なことは、「(CRMを導入して)一体何をしたいのか」という業務要件を数年先まで見据えて計画することです。導入する段階でそれを実現できるソリューションを選定する。さらに、現在のIT産業はM&Aが多く、導入した製品を提供したベンダーが数年先まで存在している保証がどこにもないのが現状ですので、インテグレーターのサポート力も重視すべきです。

技術供与・営業・マーケティング
アライアンス先との連携を強める

  IBMは、シーベルをはじめ各分野のトップベンダーとグローバルなアライアンスを提携することでシェアを伸ばしてきました。今後の拡大にも大きなカギを握っていると思われますが……

日高 トップベンダーの各社とは、販売やマーケティングだけでなく製品開発をふくめた技術支援交流も積極的に行っています。営業面では、パートナー各社とCRMコンソーシアムを設立し、さらに連携を強めています。

  コンサル・技術・営業と磐石な組織で臨むということですね。では、今期の目標は。

日高 CRMを導入すれば、必ず売上げも利益も伸びると断言するためにも、“お客様に本当のCRMの価値を提供する”ことを念頭においたビジネスを推進したいと考えています。そのためにコンサルティング力を高め、ROIに基づいた業務ノウハウの構築に力を注ぐ方針です。CRM市場は、今年も20%程度の伸張は間違いない。当社は、少なくともその倍程度の伸び率を目標としています。

(聞き手・矢島 竜児)

日高 信彦  (ひだか のぶひこ)

昭和27年10月16日、滋賀県生まれ
昭和50年 東京外国語大学卒
昭和51年10月 日本アイ・ビー・エムにSEとして入社
昭和61年1月 東京プログラミング・センター第5開発課長
平成2年8月 AD製品開発係長
平成8年2月 大和研究所APシステム開発/部長、CRM/BI製品群の開発を担当
平成11年1月 コアポイントテクノロジー/GM、CRM製品群のマーケティング、販売、技術支援を担当
平成14年 CRMソリューションズ/部長
CRM/BIソリューションのアジア各国におけるマーケティング、販売、技術支援を担当


↑頁頭に戻る