規制緩和が進む保険市場にあって、御社は「生損保融合」の先駆けとしてミレア保険グループを結成。さらに、その礎ともいえる「ブレークスルー2003計画」を推進されているようですが、激化する生損保業界で御社はどのように変わろうとしているのですか。
岩田 自由化、外資参入などで厳しい状況にあることは、周知のことです。それ以上に重要なのは保険に関する認識が変わりつつあります。従来、損害保険は事故補填、生命保険は貯蓄という考えがあったのですが、いまや規制面だけでなく、お客様の認識自体にもその垣根はなく、ライフタイムバリューというか、ライフサイクルに合わせトータルで保険という商品を捉えています。そこでは、保険領域の垣根を越え、ニーズにあった商品をタイムリーに提供していく必要があります。体質強化もさることながら、ミレア保険グループの結成の狙いの1つはそこにあります。
その成果となる代表的商品が6月に発売した生損保一体型「超保険」です。一方、ブレークスルー2003計画は経営統合を視野に入れた実行計画です。
代理店と顧客双方に対応するCRM
3チャネルでサポート体制確立
その計画では「顧客本位の事業展開」を重要戦略とされていますが、CRMという視点で具体的にどのような施策をお考えですか。
岩田 当社の場合、CRMを2つの方向で捉え、実践してきました。1つは、販売を担う代理店向けに、一般的にはPRM(パートナー・リレーションシップ・マネージメント)というのでしょうか。もう1つは、実際に商品を購入するお客様とのリレーションシップ・マネージメントです。
PRMは11年前に本社のホストコンピュータと各店舗を専用線で結ぶ「代理店オンラインシステム」を構築、代理店側がお客様の契約情報を逐次ダウンロードし、満期前のタイムリーな再見積り作成などに活用する環境を整えました。その一方でヘルプデスク業務を当社のグループ会社、トリニティコンサルタント(TCC)に委託、端末操作や複雑な保険商品に関する問い合わせから、マニュアルの表記が分かりにくいといったクレームまで受け付け、その結果を現場で代理店をサポートする支店や社内の商品開発・業務管理部門などにフィードバックする体制を敷いています。
顧客から受けた事故連絡や多種多彩な問い合わせをフィードバックする仕組みはどのように確立しているのですか。
岩田 お客様に対しては、事故受付を担当する「安心110番」と商品や契約に関する一般的な質問や苦情、資料請求などを受け付ける「カスタマーセンター」の2本立てで対応。カスタマーセンターでは、お客様から電話を受けたら即、直接担当している営業課支社にEメール送信する仕組みを構築しています。
安心110番で受け付けた事故報告は、社内で即座に情報共有ができるだけでなく、個人代理店を中心とする約5000店に対しては、iモードなどモバイル端末へのメール送信も行っています。
損害保険の商品説明には、豊富な専門知識が必要のはずです。センターのエージェント編成はどうなっていますか。
岩田 むろん、相応のスキルを持った人材を登用しています。例えばへルプデスクセンターの場合、定型的な質問を担当する1次受付はパートタイマーでまかなっていますが、2次受付には代理店資格試験にパスしたTCCの人材を配置。こうしたスキル配分は、お客様向けセンターでも同様です。
ただし、CRMの本質は“経営効果”にあると考えています。器だけでは意味がありません。そのために不可欠な要素の1つが“ナレッジ”です。
営業マンが成功要因をナレッジ化
“個人知”を“組織知”に転換する
一口にナレッジといっても、その実践は難しく、お題目に終始しているのが現状のようですが。
岩田 いわゆる“個人知”を“組織知”に転換するシステムとして、昨年から実践しているのが「ナレッジボックス」です。これは全国500カ所に及ぶ支店の営業マンが、担当する代理店の成功・失敗要因を随時DB入力していくものです。
1つの事例に対し、商品を売り込む際に決め手となったキーワードは何か、どの類のプレゼン資料が奏効したかといった、あらかじめ定型化された10項目程度の質問に一つひとつ答えていくのです。支店ごとにナレッジを管理するマネージャーが配置され、蓄積していくデータから必要なものを選別、固有名詞を伏せるなどの処理をしてナレッジとして公開します。
全店の営業マンは、例えばガソリンスタンドの代理店に特定の種目を販売してもらうにはどんなキャンペーンが有効か、不動産業の代理店の場合はどうかなどをチェック後、活用していきます。アクセス数を集計した視聴率は、リアルタイムに更新し公開されます。
ナレッジ生成から個別の戦略立案にいたるこうした過程は、5年前に全社員約1万5000人にPC端末を配布し、全社的なイントラネットを構築したことでずい分スムーズになりました。
自動車や貨物、旅行など複数の損保商品に加入する顧客も多いはずです。名寄せ作業などはどうされているのですか。銀行をはじめ、どの業種業態でも苦労されているようですが。
岩田 名寄せについては、ずっと以前から自社製ツールで行っていますが、コンピュータでカバーできるのはせいぜい90%強まで。残りは先方に電話するなど、人海戦術で精度を上げているのが現状です。
ナレッジ活用は、代理店や営業支援のほかに商品開発面での成果も生んでいるのですか。
岩田 ヘルプデスクに寄せられた苦情・要望は営業部門だけでなく商品開発部門や事務部門にもフィードバックしています。また、期間限定で新商品開発向けフォーラム(電子掲示板)を立ち上げたことがありますが、当社の主力製品である自動車保険「TAP」はこのなかから生まれました。フォーラムコンテンツは、このほか事務処理の合理化をテーマにした内容などを含め、計60〜70に上ります。アプリケーションとしてロータスノーツを採用していますが、類似のテーマが氾濫しないよう、フォーラム立ち上げ前に管理者に申請し許可を得る形式を採っています。
カットオーバーから1年後に
定量的な効果検証を義務付ける
ところで、代理店に代わって顧客を直接サポートする体制を強化することも、経営効果として大きいのではないですか。従来営業部隊が行っていた定型業務をセンターに集中する結果、営業マンはフェイス・トゥ・フェイスでしか行えないコンサルティング業務に専念できるわけですから。
岩田 そうした業務改革はこれからが本番となります。すでに、従来支店の一般職が行っていた住所変更の電話受付業務を、カスタマーセンターに一元化しました。現在、支店に郵送される契約申込書の不備に関する修正業務などを、センターのエージェントにシフトする方向で準備を進めています。
センターへの業務シフトは、販管費削減というメリットも生みます。実際、保険料に占める事業費縮小はCSにとって重要なテーマ。現在保険料の35%を占める事業費を、2005年をメドに31%に圧縮する方針です。
一連のビジネスプロセス変革で、顧客満足度はどの程度向上しているのでしょうか。
岩田 当社は1997年来、「スピーディ550」、「ハートフル120」、「安心365」という顧客対応基準を定めてきました。それぞれ保険金請求のあった案件の5割は5日以内に支払いを終える、事故報告受付後2時間以内に初動結果を肉声で報告する、365日24時間で対応するという内容ですが、顧客アンケート結果の推移をみると、当初60%台だった顧客満足度が2000年に90%まで躍進しました。
そうした定量的な成果を積み重ねていくことが、CRMの本質というわけですね。単に便利なアプリケーションソフトを導入したというレベルではほとんど意味がありません。
岩田 これは一般論になりますが、当社も含め多くの企業がCRMで手探り状態が続くのは、これまで効果検証をあいまいにし過ぎた結果だと考えています。そうした危機意識が急速に芽生えつつあるのが現状ではないでしょうか。これまで定性的だった導入効果を定量的な数字に置き換えていくのは必須の課題です。
従来はカットオーバーから1年後に必ず定量的な効果検証を義務付けるなどしていましたが、今年から新たに“Entry & ExitRule”を設けて、経営効果の視点を強化しています。
最後に今後のIT化のロードマップを教えて下さい。
岩田 今年11月には、ヘルプデスクセンターで一部の先行代理店を皮切りにブロードバンドに対応したASPサービスをスタートします。
汎用サーバーでエージェントと代理店側の担当者が顧客や商品情報を共有し、画面を介したフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションやeラーニングなどを推進、ブロードバンドはビジネスプロセスの変革に拍車をかけるはずです。
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