食中毒事件から3年が経ちました。当時の教訓をどうとらえていますか。
脇田 製造業として極めて当然ですが、商品トラブルが起きてしまった場合、お客様への情報開示を迅速かつ正確に行うことの大切さを改めて痛感しました。当社は長年、お客様第一主義を唱えながら、これまでその具体的な取り組みや仕組みを確立してこれませんでした。理由はいくつか考えられますが、最大の要因は社内の各部署ごとに“お客様”の定義がまちまちだったことです。例えば、ある社員は『お得意様』といえば問屋さんを、別の社員はスーパーマーケットのバイヤーさんをイメージします。また仕入れ担当者であれば、資材を購入するお取り引き先との関係を重視する。もちろん、エンドユーザーの消費者を強く意識する社員もいます。このように立場によってステークホルダー(企業の利害関係者)が異なり、利害が錯綜したことで、商品トラブルなどにどう対応すべきかという議論がなかなか煮詰まりませんでした。それが事件を契機に、「お客様とは当社商品を直接口にして預ける最終消費者であり、それ以外の関係者は、商品提供を支えて頂く皆様」と一本化できたことで、社内体制をどう変革すべきかというビジョンを明確に描けるようになりました。
お客様センターを
社長直轄のCS推進室に移管
それが消費者対応窓口の一元化に始まる一連の改革につながっていくわけですね。具体的に経過と施策を説明してもらえますか。
脇田 もっとも重視したのは、お客様からの苦情・クレームを経営トップ層に迅速に伝達する仕組みをいかに構築するかという点です。そのために事件後半年で、全国6カ所に分散していたお客様相談室を集約し、東京・本社にフリーダイヤル・365日体制のお客様センターを新設しました。同センターでは、リスク管理の観点から新たにCTIを導入し、同一ロット商品に対して同様の苦情が2件以上発生した時点で、エージェント端末にアラームを通知する機能を装備しました。これにより通知を受けたエージェントが、即座に苦情内容を生産・研究部門のエキスパートで構成される「商品安全保証室」に転送、そこで問題が発覚した時点で、社長の号令下「緊急品質委員会」が召集され、製品回収をはじめとする対応策を迅速に協議する体制が整えられたのです。
こうした緊急体制を敷く一方で、日常的なリスク管理も徹底しました。お客様のDBをグループウエアと連携することで、部門間・社員間で苦情・クレーム情報を共有する体制を整備し、なかでも重要度の高いものは音声ファイル化して、全社員が内線網を経由してその生音声をチェックする仕組みを構築しました。一連のインフラ構築には約2億円を要しましたが、この金額は投資対効果(ROI)というより、あくまでリスク管理の徹底を優先した結果、導き出されたものです。
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