そうした取り組みは、定評のある御社の新ブランド戦略で成果は上げているのでしょうか。
大矢 ブランド開発にはお客様の声のみでなくさまざまな要素が反映されますので、なかなか“これ”と決め付けるのは難しいです。
ただ商品レベルであれば、無数にあります。例えば、直近ではイニシオ ボディークリエーターの「バスエッセンス」がそうです。従来のように、美容液を肌に塗布してマッサージするのでなく、バスタブに入れて入浴するだけでボディーのスリミング効果が得られたらという、100件以上のお客様の声に応えて商品化した入浴剤です。この商品は今年8月末の発売以降、その手軽さが受けヒット商品となりました。そのほか高齢者に配慮して説明書の文字を大きくするとか、キャップの取り外しをスムーズにできるようにするなどの改善事例も非常に多いです。
今後はより精度を向上させるために、昨年当社が共同開発したテキストマイニングツール「DIONISOS」などを積極活用し、先の年間53万データ、とくに各チャネルごとに実施する各種アンケートの自由回答文のなかから商品評価やクレーム内容を解析し商品開発や改良、マーケティング戦略などに迅速にフィードバックする体制も強化していく方針です。
ネット会員100万人の早期実現で
店頭改革を加速
全社員が顧客の声と向き合う姿勢は、顧客視点を標榜しながら実は企業視点を脱却できない企業が少なくないなかで新鮮に映ります。今後もあくまで店頭にこだわり、クリック&モルタル型モデルを志向していくのでしょうか。
大矢 競合相手である通販事業者でもリアル店舗を開設する動きがあるように、化粧品というのはやはり商品特性上、実際に触れてみなければその良さが分かりません。その意味で店頭を無視した戦略は成立しないものです。まず、現在870万人を数える(店舗会員である)花椿会員を増やすことが第一目標となります。
その一方、店頭改革を補完するという意味では、ネット会員の増強も重要な戦略となります。ネット会員はお客様だけでなく、資生堂の単なる1ファンに過ぎなかったりと、属性はさまざまですが、新商品をリリースするような場合、若年層や特定エリア在住者など、ターゲットを絞ってプリキャンペーンを打てば、需要動向をある程度把握できます。特定層で反響が多ければ、その成果を店頭での商品戦略にも応用できるのです。そうした仮説精度を上げるためにも、ネット会員は早期に100万人の大台を達成したいと考えています。
(聞き手・高橋 本成)
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