モノと比較したとき、サービスの特徴として、「同時性」「消滅性」「無形性」「変動性」があげられます。同時性というのは、サービスは生産と消費が同時に行われるということです。消滅性とは、サービスは作りおきができないことを示しています。そして、サービスは無形であるがため、価値の表現や品質の測定が難しい。また変動性というのは、同じサービスでもその日・その顧客の対応をしたのは誰か、顧客は何を求めたのかなどのさまざまな理由によって、価値や品質が変わるということです。
藤川 既存のサービス業の中には、一昔前の製造業のようなやり方で、企業側が一方的にサービスを作り上げて顧客に押し付けようとする企業があります。しかし、サービスは先に申し上げた特徴からして、本来、企業と顧客が価値を“共創”すべきものです。
にもかかわらず、これまでのサービス業は、企業側の論理のみを基準にしたサービスを展開することが多いのではないかと思います。例えば、喫茶店ではおいしいコーヒーさえ提供すればよいとされるところもありますし、写真スタジオではプロのカメラマンが正しい構図できれいに撮れば顧客は満足すると考えるところもあります。しかし、顧客の賞賛を受け成功しているサービス企業の成功事例をみると、くつろぎの場を提供することに主眼を置いたスターバックスや、子供が撮影を楽しむスタジオ作りを訴求するスタジオアリスなど、顧客が主体となって企業とサービスを共創するビジネスモデルを構築した事例が目立ちます。
――これまでの価値観は通用しなくなるということですか。
藤川 逆に、これまでの価値観にとらわれたサービス業界ほど、顧客と共創するサービスイノベーションを起こす機会に溢れていると考えられます。顧客と共創するというサービスイノベーションがおこると、顧客接点の従業員に求められるスキルも変わってきます。スターバックスの店長にはコーヒーを淹れるスキルよりも、むしろ店内を落ち着いた雰囲気にする能力が問われますし、スタジオアリスの店員にはカメラの腕というよりも、子供を楽しませる素質が重視されるでしょう。