「積極的に休みを取りなさい」――
メンタル・ワイズネスで予防策を学ぶ
――セミナーの内容を教えてください。
松下 総合サービス本部人材開発サービス室人材マネジメント局人事グループに属する“ゆとり推進チーム”が全国を廻って開催しています。具体的には、「こころ・げんき!セミナー」「アサーション」「メンタル・ワイズネス」の3つで構成します。3本とも自分に焦点をあてて、自分のために自分のことを考えてもらう内容になっています。
「こころ」では、メンタルヘルスやうつ病の基礎知識を学ぶほか、楽しい雰囲気で身体を動かし、他の参加者とコミュニケーションを図りながら、自分の知らなかった自分を発見したり、ポジティブ志向への気持ちの切り替え方を身に付けます。「アサーション」は、相手も自分も大切にした自己表現の方法を学びます。いつも他人に合わせて我慢すれば、ストレスが溜まり心の病につながる恐れがあります。自分はどうしたいのか、他人との望ましい関係を構築するには、などと自分自身に問いかけます。自分と他人、相互を尊重する精神のもと、気持ちを率直に伝えることで、より良い人間関係を築くためのトレーニングです。「メンタル・ワイズネス」は、心の病気の予防のための賢明な知識を学びます。ここでは、とくに“休む”ことの重要性を強調しています。
コールセンターは忙しい組織ですが、心身の健康を守るには、休暇を取ることも大切です。最高のパフォーマンスとは、仕事が楽しく非常に集中できている状態。しかし、疲れてくると楽しさがなくなり集中力も低下します。パフォーマンスの落ちた状態ではミスが増え、お客様や周囲に迷惑をかけ、それが心の負担となってさらに落ち込んでしまうことにもなりかねません。それでもシフトに入っているので出勤せざるを得ない。メンタル・ワイズネスでは、「自分がリラックスできる状況は何か」を見つけることを推奨します。
――しかし、シフトで動くコールセンターでは、休暇を取ろうにもなかなか言い出しにくいのではないでしょうか。
松下 確かにコミュニケータは、休みたくても周囲のことを考えて言い出せないとか、休むことは悪いことではないかと考えてしまいがちです。しかし私自身が、セミナーを通じて休むことの大切さを伝え、自分の感情や考えをもっと出していこうとメッセージを送っています。実際には休まなかったとしても、会社が受け入れる体制を用意してくれるので、心の負担は軽くなったという受講者の声を聞いています。
当然ながら、管理者側には判断力が求められます。業務は動いていますので、本来は休まれると困るわけです。誰もが自由に休暇を取得しては仕事になりませんし、ハードワークは個人のスキルを伸ばすためには必要なことです。申請者が本当に深刻な状態か、アドバイスで回復できるレベルか、単に休みたいだけなのかを見極める洞察力が重要になります。そこで、管理者に対してもメンタルヘルスに関するセミナーを開催し、判断力やどうバランスを取るかを学んでいただきました。
セミナーの開催希望殺到も
課題は早急なファシリテータ育成
――受講実績と導入効果は。
松下 セミナーを開始して2年、これまでに1000名以上の方に受講していただきました。幸い大好評で、あるセンターでは、それまで会話もなかった人同士がコミュニケーションを始め、雰囲気が非常に明るくなったと聞いています。現在では、口コミで「あのセミナーは素晴らしい」と広まり、ゆとり推進チームには全国の拠点やクライアント先のセンターから、開催要望が届いています。ただ、リソースが限られているので、それなりの苦労もあります。
――もっと体制を強化して、普及に努める必要がありそうですね。
松下 直近の課題は、セミナーを開催できる人材の育成です。当社センターは現在、全国35拠点あり、2万7000名以上のコミュニケータが勤務しています。ゆとり推進チームが数名で2年頑張ってやっと1000名の受講ですので、リソースを増やすことが急務。現在の構想では、全国35拠点に各々2〜3名の「ベルここ・ぱーとなー」を置いて、各拠点でセミナーを開催します。各拠点長にファシリテータの候補者を数名選出してもらい、ゆとり推進チームが中心となって育成し、ノウハウを伝授していきます。また、プログラムの強化も検討しており、現場でのケアの方法論などについて研究・開発中です。
当社社長の園山は、社内でことあるごとに「人材を大切にすること」の重要性を述べています。サービスもクオリティも人が生み出すものだからです。業種を問わず、企業の社会的責任として心の病の対策への取り組みが広がることを望んでいます。
(聞き手・山本浩祐)
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