井上 銀行時代の元上司がセコム損害保険の社長に就任した際、コールセンターの運営で協力して欲しいと相談を受けたのがきっかけです。最初のミッションはコールセンターの建て直しでした。初めて現場に行った日のことは今でも強烈な印象として残っています。ワークフローが確立されておらず、やたらに探し物が多く、スタッフが現場を走り回っていました。改善すべきことを随時メモし始めたところ、3日でノート3冊が埋まるほどでした。
――どのように改革を進めたのでしょう。
井上 ちょうど本社の移転があったので、それを機にセンターを本社内に組み入れ、移転とともにコールセンターシステムとメンバーを一新しました。システム構築は、それまで何度も携わってきたのでその経験が活きました。一方、人材育成は今でも最大の課題です。現在、80席規模で自動車保険と傷害保険、ガン治療費用保険に関わる窓口業務を運営しているのですが、センターが営業の最先端であるということを伝え、“販売する・ご利用いただく”という意識がすみずみまで行きわたるよう日々指導しています。
例えば、外勤営業マンが熱心に顧客に商品を提案説明して資料を置いてきたとします。顧客がその熱心さに心を動かされて資料に書かれた電話窓口に問い合わせをした時、コミュニケータ(オペレータ)が冷ややかにどんよりとした声で応対してしまったら営業マンの熱心なトークは水の泡になります。コールセンターと営業が一体となって同じテンションでお客様と向き合わなければ、お客様は違和感を感じ、一度は“買いたい”と思った気持ちも冷め切ってしまうでしょう。こうしたことは、マニュアルや命令で画一的に指導できるものではありません。コミュニケータの気持ちや意識を一つにするのは、マネージャーが自分の「営業への思い」を毎日伝え続ける他ありません。
課題はコスト削減ではない
「いかに経営貢献するか」にある
――現在は経営層の立場からセンターを管轄されていますが、経営サイドから見てセンターという機能をどうお考えですか。
井上 コールセンターは必ず経営貢献できる、またはすべき部署だと考えています。
よくコールセンターはコストセンターといわれますが、それはそのセンターの役割を明確にできていないからです。労働集約型の業務である以上、コストがかかるのは当たり前です。しかし、たとえコストセンターであっても、それ以上に経営貢献する機能や役割を持っていれば、コストセンターであって一向に構いません。
コンタクトセンター機能の経営価値を見出すためには、まず経営層からセンターのミッションを明確に打ち出すことが重要です。センター側はそのミッションに到達することで、経営貢献したことを示すことができるはずです。私自身は、とにかく売り上げを上げることを最優先にセンターを運営し、その実績を社内にレポートしていました。
――御社のような業態ならばともかく、製造業をはじめとして一般のコールセンターではコストセンターという位置づけから脱却するのに大変な苦労があります。
井上 貢献の仕方は、必ずしも直接的なプロフィットを創出することだけとは限らないと思います。例えば、銀行のように窓口がある業態であれば、コールセンターの電話応対でお客様の現状や要望を聞き出して、「ローンの借り換え試算表をお作りしておきます」といったような提案を行い、ローン相談窓口へ誘導すれば、プロフィット創出の布石を作ったことになります。また、日々の応対を通じて顧客満足度(CS)を高めることも、長期的なプロフィット創出につながります。